コラム
スマートグラスの投影方式を図解。導波路・小型ディスプレイ・網膜投影の違い
導波路、小型表示モジュール、レーザー網膜投影は何が違うのか。見え方・度付きレンズ・コストを整理し、実際のデバイスを例に光源の配置まで図解する。

一口にスマートグラスといっても、文字や映像を表示する方式はいくつかある。
透明なレンズの中で光を運ぶ導波路、小さな表示窓をのぞく方式、レーザーで網膜に映像を描く方式。仕組みが違えば、見え方や目の疲れ、度付きレンズの扱いも変わる。
この記事では、それぞれの仕組みと、使うときに感じる違いを整理する。
光を作る部品と、運ぶ部品は別
Micro LEDやMicro OLEDは、映像を作る部品。ウェーブガイド(導波路)は、その光を目へ運ぶ部品だ。
この2つは組み合わせて使う。Even G2とRokid Glassesも、小さな表示素子と透明な導波路を組み合わせている。
初代HallidayやHaloは、小さな表示窓を見る構成だ。レーザーで網膜に映像を描く方式とも違う。
どの方式でも光は最後に網膜へ届く。「網膜に映す」という言葉だけでは区別できない。
導波路は、薄い板で光を運ぶ
導波路は、映像の光を薄い透明な板の中で運ぶ。入口で光を入れ、板の中で反射させ、目の前で取り出す。大きく分けると、この3段階だ。
入口では、小さな表示素子とレンズからなる光学エンジンが、映像の光を導波路へ送り込む。回折型の導波路では、入口の格子で光の進む向きを変え、板の中を進める角度にする。
板の中で使うのが「全反射」。ガラスなどから空気へ向かう光は、境界に当たる角度が一定の条件を満たすと、外へ抜けずに内側へ反射する。この反射を繰り返し、薄い板に沿って光を運ぶ。
そのままでは光は目に届かない。出口の格子が光の一部を別の角度へ曲げ、板の外へ取り出す。出口を目の前に置くことで、フレームの端から来た映像を瞳へ届けられる。
レンズ表面に文字を映しているわけではない。光を瞳へ届けることで、光学系が設定した距離に映像が見える。レンズのすぐ近くにピントを合わせる必要はない。
ここでいう格子は、光の向きを変える微細な構造だ。文字を表示する画素がレンズに並んでいるのとは違う。映像を作るのは、フレーム側の表示素子である。
Even G2の公式資料では、下の図で格子の構造を示している。G2は格子の特性を段階的に変えた「graded grating」を使い、光をより均一に配る設計だと説明されている。

表示の光を運びながら、外の景色の光は透過させる。薄いレンズで景色に情報を重ねられるのは、このためだ。
出口を1か所に絞ると、瞳が少しずれただけで光を受け取れなくなる。そこで、光を複数の位置から取り出し、同じ映像を見られる範囲を広げる。これが「射出瞳の拡大」という設計だ。
その結果できる、表示全体が見える目の位置の範囲が「アイボックス」。画面の広さを表す「視野角」とは別の指標だ。
広く見えることと、ずれても読めることは違う。
光を運ぶ途中では損失も出る。明るさのむらや光漏れ、外光による虹状の模様も課題だ。出方は製品によって異なる。レビュー論文では、効率や製造の難しさも整理されている。
カラー化にも工夫が要る。回折格子は色によって光の曲げ方が変わるため、赤・緑・青をそろえて目へ届けなければならない。
価格を左右するのは、量産の難しさ
導波路は、設計できれば安く作れるわけではない。微細な構造や光学面を精度よく作り、同じ見え方の製品を大量にそろえる必要がある。
ここで効くのが「歩留まり」、作った数のうち良品になる割合だ。SCHOTTは、導波路の歩留まり向上が材料の無駄と単価を減らすと説明している。量産設備と加工の蓄積が、価格や供給量を左右する。
中国企業は、この量産を担う重要な存在だ。例えば英国WaveOpticsは2018年、中国のGoertekと回折型導波路の量産提携を発表した。光学設計を持つ企業と、大量に作る技術を持つ企業が組む構図である。
ただ、導波路の工場が中国にしかないわけではない。SCHOTTはマレーシアのクリムで反射型導波路を量産している。Lumusも台湾のQuanta、マレーシアのSCHOTT、中国のCrystal-Optechを製造パートナーとして挙げている。こちらは、微細な格子ではなく反射面で光を取り出す方式だ。
設計企業の国籍、導波路を作る場所、眼鏡全体を組み立てる場所は分けて見る必要がある。こうした分業を見ると、スマートグラスの価格競争には、表示の性能だけでなく、精密な光学部品を安定して量産する力も関わっていると分かる。
Evenは左右2基、Rokidは中央1基
同じ導波路でも、光を作る場所が違う。
Even G2は、左右のツルの付け根付近に光学エンジンを置く。1基ずつが、それぞれのレンズへ光を送る。
Rokid Glassesは鼻の上に1基。そこで作った映像を格子構造で分け、両眼へ送る。中央の1基で、左右の表示をまかなう。
この違いは、部品の配置や調整にも関わる。
| 見るところ | 左右に1基ずつ/Even G2 | 中央に1基/Rokid Glasses |
|---|---|---|
| 映像の供給 | 左右それぞれのエンジンから | 1つの映像を両眼へ分配 |
| 部品の置き場所 | 左右の外側に光学部品が必要 | ブリッジに光学部品が集まる |
| 調整の課題 | 左右の光学系の明るさ・位置を合わせる | 分配した光の左右バランス・位置を合わせる |
| コストに関わる要素 | エンジン2基とそれぞれの組み付け | エンジンを1基にできる一方、分配用の光学設計が必要 |
表の後半2行は構成から考えられる違いで、メーカーが公表した原価や工程ではない。
Rokidはエンジンを減らし、ツル側に空間を作れる。ただし、光を分ける途中にも損失がある。原価や消費電力まで半分になるとは限らない。
Evenの2基構成も、それだけで立体表示ができる証拠にはならない。
かけ心地は、電池やフレーム、ノーズパッドにも左右される。以前の比較でも、Rokidの大きなパッドが楽に感じる場面を書いた。中央に部品があるだけで、鼻が痛いとは決められない。
小さな表示窓なら、レンズを分けられる

初代Hallidayは、右上のDigiWindowを見る。Micro LEDの光を目へ向ける構成で、大きなレンズに導波路を持たせなくてよい。
Haloもフレーム上部に表示窓を持つが、表示素子はフルカラーのMicro OLED。初代Hallidayと同じ光学設計ではない。
なお、Halliday G2は両眼の導波路と2基のMicro LEDエンジンを使う別製品だ。
利点は、表示する部分と、景色を見るレンズを分けられること。初代Hallidayは通常の度付きレンズを使える。導波路と一体のレンズより、交換の自由度を確保しやすい。
その代わり、目を表示窓に合わせる必要がある。初代Hallidayに窓の位置調整があるのも、そのためだ。
上部の窓は普段の景色を邪魔しにくい一方、読むたびに視線を向けることになる。会話相手と字幕を行き来しやすいかは、実際の配置で確かめたい。
Haloには表示のピントを+2〜−6Dで調整する機構もある。これは表示用の調整で、景色を見る度付きレンズの代わりにはならない。
片眼表示は、疲れ方も確かめたい
投影方式とは別に、片目へ映すか、両目へ映すかでも体験が変わる。片眼表示では、片方の目だけが文字を見て、もう片方は景色を見る。
初代Hallidayでは、CESで試した人が、上方の小さな表示を見続けると目が疲れたと報告している。片眼であることに加え、表示窓へ視線を向ける負担も見ておきたい。
導波路を使うSABERAも右目だけの表示だ。眼鏡商社の三共社は、SABERAなどの片眼表示で、慣れないうちは見づらさや目の疲れが生じることがあると指摘している。SABERA公式も、表示を長時間見続けることによる眼精疲労に注意を促している。
網膜走査型ディスプレイの比較実験でも、単眼視の方が両眼視より主観的な疲労が増える傾向が出ている。ただし、これは特定の実験装置での結果だ。片眼なら必ず疲れる、両眼なら疲れないとまでは言えない。
網膜投影は、ピント合わせに頼りにくい
レーザー網膜投影は、細い光を小さなミラーで走査し、網膜上に映像を作る。小型パネルを拡大して見る方式とは、映像の作り方から違う。
TDKとQD Laserが開発を進めている。TDKは2026年10月、レンズ内に薄いメタ光学ミラーを埋め込む試作を発表した。単色対応で、カラー化と量産は今後の目標だ。
大きな利点は、表示用の度付きレンズがなくても、映像がくっきり見えやすいこと。QD Laserはフリーフォーカスと呼んでいる。
瞳付近を通る細い光束を使い、目自身のピント合わせに頼る度合いを減らす。表示用に度数を合わせる手間も減らせる。
ただし、周囲の景色を見るための視力矯正は別だ。表示の見え方も、眼の状態や光学系によって変わる。

難しいのは、動く瞳へ光を届け続けること。
目は動くし、メガネもずれる。光の通り道から瞳が外れると、表示が欠けたり消えたりする。TDKも見える範囲の拡大と視線追跡を試作している。光出力や走査の制御も必要だ。
レーザーで作った映像を導波路へ入れる構成もあり得る。「レーザー走査」と「導波路」は、必ずしも二者択一ではない。
値段は方式だけでは決まらない
部品が少なければ、完成品も安くなる。そう単純には比べられない。
導波路には微細な光学構造を作る工程があり、明るさやむらの管理も要る。良品をどれだけ作れるかという歩留まりや、度付きレンズとの組み合わせもコストに響く。
小型表示窓なら広い導波路は省けるが、パネルや接眼光学系、調整機構は残る。単色かカラーかでも構成が変わる。
網膜走査にも、レーザー、ミラー、制御回路、光学調整が要る。TDKも量産時のコスト競争力を目指す段階で、既存製品より安いと確定した話ではない。
買うときには、本体価格とレンズ交換の費用を分けて見たい。
| 費用が発生する場面 | 見ておきたい違い |
|---|---|
| 最初に買う | 本体だけでなく、度付き加工・操作リング・充電用品を含めた総額 |
| 度数が変わる | 専用レンズを注文するのか、別体インサートを交換するのか、通常レンズを加工できるのか |
| レンズを傷つける | 傷ついた部品と表示用の光学部品が一体なのか、別体なのか |
| 長く使う | メーカーが交換部品や度付きレンズの供給を続けるか |
Even G2は度付きレンズまで含む一体の設計。Rokid Glassesは磁石で付ける度付きインサートを使う。初代Hallidayは通常レンズと表示窓が別だ。同じ度数変更でも、交換する部品が違う。
Haloの公式本体価格は399米ドルだが、度付きレンズや日本向けの税を含む総額ではない。各社の光学部品原価も比較できる形では非公開で、方式ごとの差額は出せない。
かけ直しても、読めるか
試着では、一度文字が見えたところで終えたくない。少し文章を読み続けて、目の疲れや視線を向け続ける負担も確かめたい。
目を動かす。メガネを普段の位置にかけ直す。それでも全文が見えて、左右の像が無理なく重なるかを確かめる。
表示窓を見る製品なら、会話相手と表示の間で自然に視線を動かせるか。度付きが必要なら、景色と表示の両方にピントが合うかも見たい。
私が重視したいのは、かけ直さずに読めて、表示を消せば普通に景色が見えること。度数が変わっても使い続けられることだ。
以前の比較で重視した「顔に乗せて1日過ごせるか」という基準は、方式が違っても変わらない。
Even G2
Rokid Glasses
Halliday DigiWindow
Brilliant Labs Halo